こんにちは。(お久しぶりです。)
ディベートにおけるサイドフェアネスについて書いてありますが、前段と中段は前置きなので、後段から読んでもらっても大丈夫です(中段のパイルールのところだけ拾い読みしたほうがいい可能性もある)
1.前段(ポケポケの話)
最近、ポケモンカードのアプリ(ポケポケ)を遊んでいます。
終盤戦の詰将棋的な要素が楽しくてついつい時間を浪費してしまうのですが、気になっている点として、現在の環境が「かなり後攻有利」というのが挙げられます。
先攻が攻撃するためのエネルギーをポケモンにつけられないので、後攻からエネルギーをつけ始めて、強い攻撃を最初に繰り出しやすいことが背景にあり、一部のサポートカードでエネルギーを加速できるデッキ以外は、後攻が理想的な回り方をすると先攻は結構厳しい試合になることが多いです。
(とはいえ、カードの引き・コイントスなどの運が絡む要素やデッキの相性なども多分にあるので、先攻の勝率が著しく低いとかはないとは思いますが)
2.中段(ボードゲームの話)
そこで、ボードゲーム一般は先手・後手のフェアネスに対してどういう考え方をしているのだろうと思って、ちょっと調べてみました。
将棋はやや先手有利だが特にルール上の調整なしで、囲碁はコミという六目半のハンデが与えられていて、五目並べを競技化した連珠というゲームは先手必勝なので、先手にだけ禁じ手となる石の置き方のパターンがあるみたいです。
他にも、ボードゲームによっては「パイルール」という公平性を向上させるためのルールを採用しているようで、
これは、「仮の先手(Aとします)が一手目を仮の後手(Bとします)に提示して、Bは一手目を見た上で、先手で打つか後手で打つかを選べる」というものです。
つまり、あまりにも強い手を一手目としてAが選んだとすると、Bは先手を選択するし、弱い手をAが選んだとすると、Bは後手を選択するので、Aは最も中立的な一手目を提示するだろうという感じです。
ちなみに語源としては、パイを2人で切り分けるとして、片方がパイを2つに切って、もう片方がどちらを食べるか選ぶというシチュエーションから来ているそうです。
3.後段(競技ディベートの話)
3-1. 即興ディベートにおけるサイド差の話
さて、ディベートの話をしますが、即興ディベートにおいて後手(否定側/Neg/Opp)有利であることに同意する人は多いと思います。(BPスタイルの話をするとややこしいので、一旦2on2または3on3の話とします)
象徴的な風景としては、対面大会の決勝トーナメントでGov/Oppを決めるじゃんけんを壇上で行い、じゃんけんで負けたほう(=Oppを引いたほう)が喜ぶ様子が挙げられます。
印象としては、2on2(NAスタイル)で結構Opp有利、3on3(Asianスタイル)でもややOpp有利といったところでしょうか。
そういえば数年前にAsianのOppをナーフすべきという記事を書いたこともあります。
このサイド差の原因としては、いくつか考えられて、
①ゲームの構造的に、後ろから立論して反論するほうが有利(リプライの順番が入れ替わることはその調整として存在していると思いますが、それでは覆らない)
②論題にもよりますが、一般に現状維持のほうが支持しやすいことが多い
③オフセットネガティブ(差がつかない/提示されない時に論題が肯定されなかったときに肯定側の立証責任を見て、否定側に投票する)的なジャッジングフィロソフィーを持っている人もたまにいる(即興では勘弁してほしい)
というあたりで、
論題設定の微調整でカバーできる部分もあれば、構造的なものもあるというような感じです。
(ちなみに、個人的な意見としては、2on2などの1モーションのスタイルでは、ややGov有利めくらいにモーションを作ったほうがいいと思っています。価値論題なら守りやすそうな方をGov側に置くなどで比較的容易にできるので)
3-2. サイド差を調整するためのモーション選択ルールの話
3on3では、3モーションが1セットになっていて、veto(拒否)するモーションを各サイド選ぶという方式が採用されています。
特に3モーション制の課題点などは思いついていないので、単なる代替ルールにはなるのですが、
中段で述べた「パイルール」を調べていて、思いついた(正確には、昔思いついてTwitter(現X)に投稿したものを思い出した)のが、表題の「2モーション制」です。
これは、Gov/Oppの代わりにモーション選択側と、サイド選択側が割り振られた上で、2つモーションが提示されます。
まず、モーション選択側が2モーションのうちの試合で採用されるモーションを1つ選択します。
その上で、サイド選択側がGov/Oppどちらのサイドでそのモーションを行うかを選択して、モーションとサイドが確定し、あとは通常通り準備時間となります。
これは、パイルールと同様に、モーション選択側はなるべく公平な方を選ぼうとするインセンティブになることに加えて、
モーション的にはGovのほうがやりやすそうな論題が選択された場合、モーション上のGovのやりやすさと、ゲームシステム上のOppのやりやすさをサイド選択側が比較考慮する必要があるという点で興味深いかもしれません。
実務的には、モーション選択時間のうちに、サイド選択側も「モーションAの場合はOpp、モーションBの場合はGov」というようなテキストを用意するようにすれば、3モーション制と同じように、お互いの選択を同時発表する形でも同じ効果が得られると思います。
実験的なルールで大会を開催できる日本語即興の人など、試してみてはいかがでしょうか。
4.余談
ちなみに、このルールにおいて、用意するモーションの数は2個である必要はなく、任意のn個のモーションセットで実施することが可能です。(モーション選択時間内にモーションを読んでどれを選ぶか判断する必要があることを踏まえると、現実的にはn=2or3だとは思います)
究極的には、n→∞として、モーション選択側が森羅万象から任意のモーションを提示して、サイド選択側が選ぶというルールにすることも可能ということですが、モーション選択側は事前準備できて、サイド選択側は即興でディベートすることになって不公平なのでやめたほうがいいです。
(そういえばカナディアンスタイルが肯定側が任意のモーションを設定できるスタイルだった気がする...)