弁論ブログ

ディベートブログですがニッチなことを書きます。

【思考実験】0秒ウィップについて考える

こんにちは。

  

今日はスコアリングのNo low winルールについて考えます。

これはみなさんご存知だと思いますが、スピーカースコアの合計点は勝ちチームのほうが高くなるようにつけないといけないというルールです。

NA/Asianであれば、単純に勝ちチームのほうを0.5点以上高くつけないといけなくて、BPだと、スピーカースコアの大小関係がランキング通りになっていないといけない(同一もダメ)感じです。

アカデミックディベートの場合は、このルールはなくて、スコアと勝敗は関係させなくても良いということになっています。

 

 

参考:特に今回の本旨に関係するわけではないけれど、3on3とBPのスコアリングに関する興味深い記事↓

 

 

これが特定の状況において悪用される可能性がある、とまでいうと大げさですが、

このルールの存在によってスコアリングが複雑な状況になりうることを考えてみましょう。

 

想定する状況の説明

BPラウンドをジャッジしていて、オープニングおよびMGが失敗していて、だいたい73-75くらいのクオリティだったとします。

次に出ててきたMOがそこそこ上手くて、比較的いけているケースと比較的いけている反論をバシっと出して、77くらいかなと判断したとします。

GWはあまり良くなくて、MOにもちゃんと反論できず、73くらいだったとします。

 

ここまではおそらく別に珍しい設定ではなくて、GWの段階で(OWを聞く前に)COが1位だなーって判断することはそこそこ良くあると思います。MOは別にとんでもなく素晴らしいスピーチをしているという想定をする必要はなくて、そこそこちゃんとしたスピーチという仮定でもこの状況は起こり得るということです。

 

そこで、OWが出てきて、1秒も喋らずに去っていったらどうすればいいのかというのが今回の思考実験です。

まあ1秒も喋らないとなるといつ始まっていつ終わるのかが良くわからない(ストップウォッチをピッてやってもう1回ピッてやって去って行った可能性もありますが)ので、

(ストップウォッチ ピッ)Thank you chair. I have no materials to add MO's argument. Therefore we are very proud to oppose this motion. Thank you. (ピッ)

みたいなことをふてぶてしい感じで言ってきて去って行ったと想定してもらっても大丈夫です。

 

 

ランキングをどうするか

こういう状況だったとしても、ランキングとしてはCOは1位にせざるを得ないと思います。

前節で仮定したように、OW以外のスピーチを聴き終わった段階ですでにジャッジはCOが1位であることを確信しており、OWが素晴らしいスピーチをしようと、中身のない繰り返しスピーチをしようと、1秒も喋らなくても、結局COが1位であることは論理的に変わらないはずです。

 

ロールフルフィルメントの観点からランキングを下げられる可能性は無きにしもあらずだと思います。すなわちウィップのロールであるサマリーや反論を放棄したという点でdiscreditするというものです。

ただし、それも限定的なものであり、それらのロールを果たさないことによるラウンドに対するアンフェアネスは生じていないし、それによってMOのアーギュメントの説得性が下がるということもありません。

また、ロールフルフィルメントも他チームとの相対によるので、他3チームが全体的に失敗していた状況である想定を考えると、セットアップや反論などのロールフルフィルメントをそれぞれのチームがそれなりに満たせていないことも想定でき、よりロールフルフィルメントとして深刻であることを説明することはなかなか難しいでしょう。

 

悪意を持ってこういう行為を行なった場合は、何か別のペナルティを与えられる可能性がありますが、それはラウンド外で(たとえば大会運営やEquity Officerから)与えられるべきものであり、ランキングにそれを反映させるのはあまり望ましくないと考えられます。

 

 

スコアリングをどうするか

そういったことを考えて、OWが0秒スピーチをしたCOを1位にせざるを得ないと決めたとしましょう。

OWのこういうスピーチに対しては、多分どのジャッジブリーフィングでも最低点をつけるように書いてあると思います。今回は日本の大会を仮定して65をつけることとしましょう。

そうした場合どうなるかというと、MOに当初考えていた77をつけたとして、チームの合計点は142点になります。

すなわち2位以下のチームに141点以下の点数をつけないといけないことになり、たとえば1点差でつけていったとしても各スピーカーに69〜71をつけることになり、OWが無難なスピーチをしていればつけようと思っていたスコアである(すなわちスコアガイドラインに準ずるであろうスコアである)73〜75程度のスコアから過剰に低くなってしまうことになります。

 

結局のところ、No Low winを守るために、どこかのスピーカーのスコアをスコアガイドラインから乖離させる必要が生じてくるということです。上述の方法を含めて3パターンありますね。

(A)他の3チームのスコア過剰に低くする

(B)MOのスコアを過剰に高くする

(C)OWに65点以外の点数をつける

 

現実的には、(A)と(B)の合わせ技(MOを高めにしつつ他3チームを低めにする)でなんとかしようとする人が多いんじゃないかと思います。

(C)に関しては実務的には一番丸く収まる(罪の無い他のチームを不当に下げないし、後述するような悪用問題に対処できる)のですが、スコアガイドラインに最も明示的に何も喋らなかったらこの点数と書いてあるので、躊躇してしまうんじゃないでしょうか。

 

悪用の可能性について

失敗したらただ低い順位とスコアがついてしまうというリスクが高いし、そもそもチームとしてのスピーカースコアが下がってブレイクの可能性は下がるので、やる人はいないと思いますが、理屈上は悪用可能ですね。

すなわち、スピーカープライズを狙っている1人が、もう1人を犠牲にして点数を跳ねさせるために、GWを聞いて勝ちを確信したCOがOWで0秒ウィップをやるという状況です。

これは上述した(B)のスコアリングが発生した時にMOのスコアが過剰に高くなるのでスピーカープライズに入れる可能性が若干あがります。

 

もちろん当ブログはスポーツマンシップに則った健全な競技シーンを望んでいるので、こういった行為を推奨しません。

松井秀喜5打席連続敬遠のごとく叩かれる可能性もあるのでやめておきましょう。